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■その4 どんな塩を選ぶか■
日本海水学会誌第55巻2号(2001) 講座

緒言
 ユーザーのための塩学入門もこれが最後になる。一般的な性質を中心にして解説してきたが、製品名がないとわかりにくいというような反応もあり、今回は若干代表的な製品名も入れて説明したい。できる限り客観的な立場で書くことに努めたいが、恐らく中傷だとか、肩入れだとか、という批判があるに違いない。学会誌という立場から考えるとブランド名が出ることを逡巡する気持ちも強いが、ユーザーの立場でといえばブランド名がないとわかりにくいことも事実だろう。あえて批判があることを承知で書くので、誤りなどがあれば会員諸氏のご指摘を仰ぎたい。

1.塩の種類を分類する
 塩にはどんな種類があるかは、このシリーズTの表11)に要因解析をしているが、商品分類にはなっていない。市販商品分類の一例を表1に示す。但しこの表には工業用塩、使用量が極めて少ない特殊用途は含まれていない。

表1 市販の塩の種類
  塩種 簡単な説明
乾燥塩 食塩 海水を膜濃縮し大型結晶缶で製造。最も広く使われる。
特級塩 食塩と同じ方法で作られる高純度塩。業務用。
微粒塩 乾燥品が多い。食塩以下の粒径で0.05mmまで。溶けやすい。
岩塩 岩塩鉱で掘った塩。大粒で硬い。
湿塩 並塩 海水を膜濃縮し大型結晶缶で製造。業務用で最も広く使われる。
白塩 海水を膜濃縮し大型結晶缶で製造。並塩より大粒。
粉砕塩 輸入天日塩を粉砕。大粒。
天日塩(原塩) 輸入品。海水を塩田で濃縮結晶。
加工塩 精製塩 天日塩、岩塩の溶液を精製して大型結晶缶で製造する高純度塩。
焼き塩 塩を250〜700℃で焼いた塩。サラサラで固まりにくい。
フレーク塩 あらしお。平釜焚きの平板状結晶。軽い。付着し易い。溶け易い
凝集結晶塩 高温の平釜焚き。フレークと並塩の中間型。
大粒塩 10mm以上の大結晶、造粒塩など。
添加物塩 旨味調味料 食卓用。グルタミン酸、イノシン酸などを添加。
苦汁 マグネシウムとして0.03〜0.5%添加
カリウム塩 カリウムとして、減塩用25%以上、調味改善用5〜25%
各種ミネラル 鉄塩、カルシウム。外国ではヨード、フッ素、亜鉛、セレンなど
食品 ごま、胡椒等各種香辛料、ニンニク、ハーブ類、など
特殊 海水平釜焚 立体濃縮して平釜焚きした凝集塩。小規模製塩
海水直接乾燥 噴霧乾燥などで海水全乾燥、小規模製塩。

この他食用以外の特殊な目的に使われるもの
医薬、試薬 局方塩、試薬塩などの高純度塩
家畜用固形塩 加圧成形したブロック塩、ミネラル添加、
副生塩 ゴミ処理場でできる塩、用途限定で使用
人工海水、培地塩 溶解して人工海水、培地などになるよう組成を調整したもの
浴用、エステ用塩 香料、乳化剤などを混合
葬祭用塩 シリカゲルなど乾燥剤を混合


2.食品工業用の塩ー食用塩安全衛生ガイドライン
 食品衛生法にHACCP方式が導入され、HACCP対象企業だけでなく食品工業全般にHACCP方式の衛生管理が進められるようになった。HACCP方式では原材料の安全性の確認が重要な問題になる。塩はあらゆる食品に利用されるため、その安全性の確証を求められることになる。これに応えるための対応として、このシリーズ第1回に「塩の品質に関するガイドライン」を紹介したが、平成13年4月から改正され、「食用塩安全衛生ガイドライン」になったので、その内容を簡単に紹介する。なお平成13年4月からは食用塩安全衛生ガイドラインの検査に合格した工場の製品については製品に図1の認定工場マークがつけられる。
 食用塩安全衛生ガイドラインでは、年1回の安全衛生管理、生産設備の衛生管理に関して現地検査および製品分析による検査が行われる。検査内容は、食品安全衛生責任者の任命、従事者の衛生管理および教育活動、品質管理体制、安全衛生に関する作業手順書、クレームへの対応および是正措置、原料とするろ過海水の濁質管理、工程の密閉性、不良品処理の安全確認、包装材料の安全性確認、清潔区域と非清潔区域の分離、腐食対策、金属検知器などの異物検出システム、防塵対策、防虫防鼠対策、整理整頓清掃状況、控え室、トイレなどの環境などがあり、このほか製造工程すべてにわたるチェック項目が定められている。製品検査の基準は表2に示した.
このような安全性確認を表示した塩は現在国内の膜式せんごう法の7社(新日本ソルト、赤穂海水、錦海塩業、ナイカイ塩業、鳴門塩業、讃岐塩業、ダイヤソルト)だけである。しかしこの7社で国内の海水からの製塩の99%を占めるし、食品工業用の大部分をカバーしている。この製品種別は大分類として精選特級塩、特級塩、食塩、並塩、白塩と称されているものである。各メーカーで微粒から大粒まで、低純度から高純度まであるからほぼカバーできるはずである。

図1 安全衛生基準 認定工場マーク
安全衛生基準 認定工場マーク

表2 製品の安全衛生基準
項目 内容
不溶解分 0.01%未満
溶状 無色透明
重金属 10 mg/kg以下
ヒ素 0.2 mg/kg以下
水銀 0.05 mg/kg以下
カドミウム 0.2 mg/kg 以下
1 mg/kg以下
1 mg/kg以下
有機臭化物 検出せず
一般細菌数 300 ケ/g以下
大腸菌群 陰性

3.家庭用には
 家庭用の小袋市場は参入企業が多く、わずか30万トンの市場に数百種の製品がひしめき合っている。生活用塩の食塩が50%程度をしめて圧倒的に多いが、スーパーマーケットなどの棚は、マージンが大きく価格も高い商品がイメージ形成を図って売込みが激しく、時には虚偽宣伝に近いようなものもあり、消費者は惑うばかりである。
 具体的なことを説明するため、ある程度学会誌のタブーを犯して商品名の例を出しながら説明することにする。家庭用の塩は業務用と違ってあらゆる用途に使う。しかもそれほど多種類の塩を置くことはできない。どうしても広い用途に使えること、自分の生活に合わせたしお選びをすることが基本になる。

1) 使いやすさの視点から注目されるのは、
 標準的、安価、用途が広い、という点で食塩は家庭用塩のトップブランドである。
 軽く、付着しやすく、溶けやすいフレーク塩(あらしお)は、料理や漬物に凝る人に向いている。乾燥型のキングソルトライト、海の華焼き塩、ふんわりいそしお、湿りタイプのあらしお、赤穂塩しぶき、瀬戸のあらしお、昔塩青袋、磯の華などが代表的。なお湿りタイプの凝集塩は湿りタイプのフレーク塩に似た感じで使うことができる。湿りタイプの凝集塩はブランドが多く、比較的販売量の多いものとしては、伯方の塩、昔塩、シママースなどがあり、天塩も凝集晶に近い性質をもっている。
 固まりにくくさらさらした焼き塩は、計量カップなどを使う人にはよさそうだ。手で掴みにくい難点はあるが、分散性がよく振り塩は均一にできる。
 ビンや、カートンに入った塩、食卓塩タイプ、クッキングソルトタイプなどで種類が増加している。使いやすさの点では最高だが、料理に凝る人には意外と感による計量がしにくく、向かないケースもありそうだ。
 このほか特定用途の塩、例えば漬物用、ステーキ用、などでは、適切な添加剤があり、味や仕上がりに効果のあるものが市販されている。

2) 味の視点から注目されるのは、
 スパイス、ハーブ類の入った塩は特徴がある。特に肉料理には効果が大きいものが多い。手間も省ける。自分の食生活に合わせた選び方が必要で、種類が多いから製品例示もしにくいが
 うまみ調味料の入った塩としては、味塩の知名度が高い。うまみ調味料は使いやすい形で販売されており、塩に一定量入れる意味はあまりないようだが、うまみ調味料の味が好きな人にとって食卓用には便利だろう。
 苦汁を加えた塩は直接なめると丸みのある味が出る。てんぷらの付け塩のように固体で味わうようなケースでは差が出るが、味の差はきわめて微妙で、煮物などでは差がない。苦汁分が多い塩としては、粟国の塩、昔塩、天塩などがある。
 カリウムの入った塩は、塩化カリウム20%位までは魚肉の味がよいといわれるが、微妙な差である。瀬戸のほんじお、低納塩などがある。それ以上になると味はかなり悪くなる。
 まだ量が少ないが海水を噴霧乾燥などで瞬間蒸発させてほぼ海水そのままの組成をもつ塩も市販されている。海水組成の塩では今まで人工海水用の塩があった。味はかなり違った塩だが、クセがあるから誰にでもよいという塩ではない。

3) 健康面から見ると、
 カリウムの多い減塩用の塩は、 塩化カリウム30%以上の減塩用の塩は医師の指示を得て使用することを勧めたい。医学関係者の中では高カリウム血症や心筋への影響を懸念する意見も多い。また味もクセがある。例えばライトソルト、良塩などがある。
 苦汁やカルシウムを加えた塩には、マグネシウム、カルシウムの効用を期待しているケースがある。マグネシウム、カルシウムは人体に必須のミネラルだが、多量に必要なミネラルであり、塩から摂取することには無理がある。
 鉄塩、その他の微量必須ミネラルなどを加えた塩が市販されている。鉄塩など人間にとって微量が重要なミネラルについては健康上の意味を持つケースがでくると考えられる。外国ではヨード、セレン、亜鉛、フッ素などが添加される例があるが、日本では認められていない。
 自然塩として宣伝している塩は要注意だと考えている。ネーミングがよく体によさそうなイメージを連想させる。しかし日本で市販されている塩は化学的な反応過程を経て作られる塩はなく、すべて海水を濃縮して作られる自然の塩である。自然塩と称して差のないものをあえて差別化を図るのは、消費者を欺く表示といえるかもしれない。
 最近、深層海水塩が話題となっている。しかし今までのところ深層海水から作られる塩と表層海水から作られる塩で差があるというデータはない。むしろネーミングが受けているといってよい。深層海水の特性は富栄養性と清浄性にあると考えられるが、リン酸、窒素などの栄養成分は苦汁に移行してしてしまい塩には入らないこと、またこれらは植物性プランクトンなどの栄養源であり人体への栄養源としてはほとんど意味がないこと、清浄性については膜濃縮せんごう法の海水の方がはるかにきれいななこと、など考慮すると今後の研究を待ってもおそらく他の塩よりよいという結論を出すのは困難ではないかと考えられる。

4.シリーズを終わるにあたって
 1998年塩の専売制が廃止された。そして2003年4月からは輸入規制も解禁される。恐らく今後塩の市場は今までになかった販売合戦が起こる可能性があり、表示なども先鋭化する危険がある。消費者はますます利口にならないといけなくなるが、生産、販売業者は、塩が人が生きていく上で欠くことができない生命維持産業であり、その社会的責任が大きいことを認識して、正しい情報の提供、消費者を惑わせないような表示に努力する必要があるのではないだろうか。
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