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にがり にがり
再度「にがり」に
関する要望


にがり規格に関する
最近の情報と解説

「にがり」の規格の
審議が進んでいます


粗製海水塩化マグネ
シウムの規格基準の
制定について(解説)


塩のにがり成分(2)

苦汁の話

塩のにがり成分(1)
にがり規格に関する最近の情報と解説
(2009年7月記載)

1.前回までの話《にがりの項参照》は、2007年9月厚労省の要望により粗製海水塩化マグネシウムの規格基準の制定について(解説)まででした。その後、マスコミ等にも沢山取り上げていただきましたが、特に2008年3月14日の朝日新聞の記事は大きな反響がありました。このような社会的反響もあって、2008年3月19日第169回国会内閣委員会で川内博史議員(鹿児島1区民主党)が大事なポイントについて質問し厚労省食品安全部藤崎部長からの回答を引き出したことで大きく展開しました。2008年3月26日にはこのままでは混乱に拍車をかけることになると考え、私の名前で厚労省に施行延期のお願いの要望書も出しました。結果的に2008年4月1日の厚労省通達(食安発0401001)で、2007年3月の粗製海水塩化マグネシウムに関する告示は当分の間適用しないことになりました。即ち、とりあえず多くの人の力を借りながら、前のままになった。ただし厚労省は塩業界の要望する食品衛生管理者常置に対応する要望と品質規格に関する要望についての検討を進めることとなった。

2.2008年4月厚労省から「にがり」に関する現状についての情報提供が求められ、「にがり」規約に関しての業界意見の再度見直しを行った。豆腐業界の意見を聞くため、大手による日本豆腐協会、それ以外の全国豆腐油揚協同組合連合会、の意見を聞きましたが具体的要望はありません。豆腐業界は12,500社もあり、組合に入っているところが一部であって、それらはにがり販売業者が作った調整「にがり」を使用しているものと推定しました。製塩にがりをそのまま使うのは豆腐屋さんにとっては濃度調整などが大変なのだと思います。「にがり」そのものについても公開されたデータが少なく明確な分析値をもっているところすら少ない状況であり、組成については「にがり」の製造販売を行っていると想定された102社に照会を出しましたが回答は42社で、サンプルや分析法などが明確なものは製塩大手6社しかなかった。そのほか、海水総合研究所の分析データと玉井氏が塩と「にがり」がよくわかる本に集約された商品の記載値も参考とさせていただいた。「にがり」の製造販売を行っている会社から選んだ8社の意見を聞き、2008年7月22日改めて厚労省に要望書を提出した。しかし、収集したデータの集約に問題があるものや、正常のデータとは考えられないものもあるので、これらのデータをベースに現在の製塩業界で作られている正常な「にがり」濃度範囲を推定し、2008年11月11日要望書を一部修正提出した。

3.厚労省は薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会の中で、2008年11月25日及び12月22日、2009年6月24日に開催された部会で粗製海水塩化マグネシウムが審議された。11月25日の審議会では食品添加物部会と食用塩公正取引協議会が参考人として呼ばれました。添加物協会では高野専務、高橋常務、山田さん、村上第13部会長(製造用剤)、の4氏が出席されて、高橋常務が参考人として意見陳述をされました。基本的意見は現行の制度、規格案をそのまま踏襲することが重要であること。改善点としては安全性向上の見地から鉛規格を従来の硫化水素法から原子吸光法として数値の見直しをすることが提案された。食用塩公正取引協議会では尾方副会長(私)、新野事務局次長、上田朋和商事名古屋工場長が出席し、尾方が参考人として意見陳述をしました。基本的意見内容は、このままでは小規模業者が生産できなくなるから、制度、規格案を見直して欲しいというものです。なお、審議会では規格を審議する場で、食品衛生管理士に関する問題は制度上のことを審議する場ではないとされたため触れていません。

4.要望内容と見解
食用塩公正取引協議会で要望した内容とその主な見解は以下の通りです。見解は審議会の検討結果で最終結論ではありません。
2008年7月22日要望書要旨
食品安全部基準審査課長宛
 1)小規模製塩業者が事業継続できるように
 2)現在市場にある「にがり」が流通上支障のないように

項目 現行規格 要望内容 ポイント
定義 海水から塩化カリウム及び塩化ナトリウムを析出分離して得られた塩化マグネシウムを主成分とするもの 海水から塩化ナトリウムを析出分離して得られた塩化マグネシウムを主成分とするもの 定義変更の要望が承認された。注1)参照
含量 塩化マグネシウムMgCl2として、12.0~30.0%を含む マグネシウム含量として2.0〜8.5%を含む。(塩化マグネシウム換算8〜33%) 規格の変更を承認。注2)
性状 無〜淡黄色液体 無〜茶色の液体 未承認
硫酸塩 SO4として4.8%以下 SO4として6.5%以下 規格変更を承認。注2)
ナトリウム Naとして4.0%以下 Naとして6.5%以下 規格変更を承認。注2)
重金属 重金属Pbとして20ppm以下 重金属削除、鉛4ppm以下 鉛として2ppm以下に修正、注3)

注1)今まで、規約上は塩化カリウム除去をしていない「にがり」は粗製海水塩化マグネシウムではなかった。すなわち、一部の膜法にがり以外は粗製海水塩化マグネシウムではなく、食品添加物として規格外品であった。これが平成9年の規約改正で塩化マグネシウム含有物から粗製海水塩化マグネシウムに名称変更され、定義も変更して定義された。法律上は定義に合う膜法にがり以外は法的には豆腐凝固用には使えないが、従来「にがり」も粗製海水塩化マグネシウムと表示すること、「にがり」と表示せず粗製海水塩化マグネシウムと表示すること、などの保健所の指導があり、実態と異なる定義や名称のもとで商品は流通しているというねじれた状態で「にがり」が使われてきた。今回、一部分だが矛盾が解決することになる。ただし、粗製海水塩化マグネシウムという一般消費者には知られていな言葉が法律上強制され、一般的に使われている「にがり」という言葉が法律上使えない場が生じるという問題はそのまま残っている。

注2)海水を蒸発濃縮して塩を作る場合、塩化カリウム等のにがり分が析出開始するまで煮詰めなければ「にがり」のマグネシウム濃度が薄くなり、ナトリウムや硫酸塩の濃度が高くなってしまう。今回の要望を認めていただければ、通常の製塩の状態すなわち、塩化ナトリウム以外の塩類析出開始点までの煮詰めで、余裕をもって製塩後のにがりをそのまま製品にできると想定される。

注3)これは食品添加物協会の提案です。審議会では厳密な審議がされました。しかし、日本に流通する塩や「にがり」で鉛が問題になる例はほとんどないはずです。鉛は歴史的にも国際的にも重金属汚染の代表選手として扱われているので、食品安全の象徴的意味もあるでしょう。
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